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ノイズを含んだ信号の測定- オシロスコープによる測定の簡素化-


はじめに

ノイズは誰もが悩む問題です。どなたも電気回路のノイズの原因を探したり、測定への影響を抑えるために時間をかけたことがあると思います。

ノイズの発生源は設計の内部または外部において無限にあり、観測したい信号が見えにくくなってしまいます。レーダ伝送や心臓モニタなどの低電圧(mV)信号測定では特に問題となります。ノイズのために信号の本当の電圧が測定できなかったり、ジッタが増えてしまってタイミング測定が難しくなったりすることがあります。あるいは、目的とする信号において、ノイズのない、きれいな波形が必要となることもあります。また、きれいな波形であれば、設計したものがどのように機能しているかを明確に見せることができ、レポートや資料の作成に効果的です。

お使いのオシロスコープには、ノイズに対処するための機能やツールが備わっています。このアプリケーション・ノートでは、ノイズを低減するために一般的にオシロスコープに装備されている機能と、テクトロニクスMSO2000シリーズ、DPO2000シリーズ・オシロスコープで初めて実現された革新的な機能について説明します。MSO2000シリーズ、DPO2000シリーズに実装されているFilterVu®可変ノイズ・フィルタを使用すると、不要なノイズを抑えながら、グリッチをオシロスコープの全帯域まで取込むことができるため、重要な高周波成分を見落とすことなく、詳細に観測することができます。

オシロスコープでノイズの多い信号を測定

安定したトリガの必要性

信号を解析するにはまず安定した波形を表示させる必要がありますが、ノイズの多い信号では安定したトリガをかけるのが難しいことがあります。ほとんどのオシロスコープには、この問題を解決するための機能が備わっています。

安定したトリガをかけるには、多くの場合、まずどのトリガ・カップリングが適しているかをテストします。当社のほとんどのオシロスコープには、高周波(HF)除去、低周波(LF)除去、およびノイズ除去の3種類のトリガ・カップリングが備わっており、安定したトリガのために使用します。

HF除去はトリガ経路にローパス・フィルタをかけ、高周波の不安定な成分またはノイズを無視します。LF除去はトリガ経路にハイパス・フィルタをかけ、トリガの元となる低周波信号成分を取り除きます。ノイズ除去は、トリガのヒステリシスを増加させ、トリガの元となるランダム・ノイズを防ぎます。どのモードが適しているかは予測するのが難しいため、各モードを試して安定したトリガをかけるようにします。

ほとんどのオシロスコープのトリガ・システムには、「ホールドオフ」という設定もあります。ホールドオフでは、ユーザの設定した遅延タイマの後にトリガをかけます。繰返し性のある信号ではホールドオフを調整して、誤ったトリガを無視するようにします。

それでもまだトリガが安定しない場合、ほとんどのオシロスコープには帯域制限フィルタが装備されており、これにより信号経路の高周波信号成分を取り除くことができます。一般的なオシロスコープでは帯域制限フィルタはわずかな種類の周波数設定しかなく、20MHzより下には設定できません。(電源のデバッグなどのアプリケーションでは、この周波数より下の周波数設定が必要となります。)帯域制限フィルタの周波数設定を選び、トリガが安定するか確認します。

表示信号に含まれるノイズの低減

トリガが安定したならば、次に、表示される波形のノイズを調整します。表示されるノイズを低減するためのツールとしては、先に説明した帯域制限フィルタ、波形取込みのアベレージ(Average)モード、ハイレゾ(HiRes)モード、そして当社MSO/DPO2000シリーズ・オシロスコープの新しい機能であるFilterVu可変ノイズ・フィルタがあります。

帯域制限フィルタ

帯域制限フィルタでは、選択した周波数までオシロスコープの帯域を制限します。これは、選択した周波数より上の信号はトリガ経路、アクイジション経路、ディスプレイ経路において減衰するか、完全に除去されることを意味します。帯域フィルタは、安定したトリガのためだけでなく、オシロスコープに表示されるノイズを低減するためにも使用します。

オシロスコープでノイズを抑える最も簡単な方法が帯域制限フィルタの使用であり、不要なノイズが固定のカットオフ周波数より上の場合は十分に機能します。しかし、高速のグリッチまで除去されてしまうことがあります。

オシロスコープでは一般に、限られた数の帯域制限設定しかなく、標準的な設定としては250MHzと20MHzとなっています。

アベレージ・アクイジション・モード

アベレージ・アクイジション・モードでは、何回かの取込みからポイントごとに平均し、各時間サンプルにおける平均電圧を求めます。平均する回数はユーザによって設定できます。一般的に、ノイズは波形取込みごとにランダムであり、ときには大きく、ときには小さくなります。これらのランダム変動を十分な回数で平均化することでノイズをキャンセルし、安定した波形を表示することができます。アベレージ・モードを利用するには、繰返し性の波形であることが必要です。繰返し性のない波形やシングルショット波形では平均化できません。

アベレージ・モードは、相関性のないすべての信号、ランダム・ノイズ、イベントを減衰します。また、非常に低い周波数からオシロスコープのすべての時間軸設定において機能します。

1つのアベレージ波形生成のためには複数の波形を取込む必要があるため、入力が変化する信号や前面パネルの設定を変更した場合などでは波形の更新が遅くなることがあります。これは、まれにしか発生しないグリッチを見落としてしまうかもしれないことを意味します。

アベレージ・モードはオシロスコープの全帯域で高周波の繰返しイベントを取込むため、アプリケーションによっては帯域制限フィルタよりも優れた結果を得られる場合があります。

ノイズの低減:

帯域制限フィルタとアベレージ・モード

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
デフォルトで取込んだ低電圧正弦波の表示例。30mVのノイズが表示されている
2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
帯域制限フィルタを20MHzに設定。ノイズが大幅に減っていることがわかる。これは、多くのノイズが20MHzより上であることを示しているが、低周波のノイズがまだ残っているもわかる
2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
32回のアベレージ・モード。ノイズがほとんどない、きれいな波形になっている。アベレージによりランダム・ノイズのすべての周波数成分が除去されている

ハイレゾ(HiRes)アクイジション・モード

オシロスコープによっては、ハイレゾ・アクイジション・モードを装備しているものもあります。ハイレゾ・モードはアベレージ・モードに似ており、平均化によってノイズを低減します。ハイレゾ・モードでは波形取込みごとに「ボックス・カー・アベレージ」を実行し、1回の取込波形におけるいくつかの隣接したサンプル間で平均化して1つのハイレゾ・サンプルを生成します。平均化により、ノイズによって生ずる高速の電圧変動をキャンセルすることで、高周波ノイズを低減する効果があります。ハイレゾ・モードは、隣接した複数のサンプルから1つのハイレゾ・サンプルを生成するために、隣接したサンプルが十分な数得られる遅い時間軸設定においてのみ機能します。高速なサンプリング・レートを使う時間軸設定では隣接したサンプル数が少なくなるため、効果は低下します。

アベレージ・モードと違い、ハイレゾ・モードは繰返し性のない波形、シングルショット波形でも使用することができます。また、1回の波形取込みで実行できるため、ハイレゾ・モードでは入力信号が変化したり、前面パネルの設定が変更された場合でもより高速な波形表示の更新が可能になります。時間的に隣り合ったサンプルを組合せるため、遅い時間設定におけるエイリアシングの可能性も低くなります。

ハイレゾ・モードはローパス・フィルタの一種なので、高速のグリッチを見落とす可能性があります。ハイレゾ・モードでは高周波ノイズがいくらか通過するため、信号の形状やエッジの位置があいまいになります。ハイレゾ・モードでは、除去された周波数成分は表示できません。

ハイレゾ・モードでは、いくらかのエイリアス周波数が表示上では低下しますが、ハイレゾ・モードのローパス・フィルタの周波数選択性が良くないため、いくらかのエイリアス周波数は残ります。

ノイズの低減:

アベレージ・モードとハイレゾ・モード

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS

DSPフィルタ

オシロスコープの中にはDSPフィルタを利用し、信号に含まれるノイズの特定の周波数を後処理で除去するものもありのます。この場合、フィルタの周波数を自由に設定することができます。フィルタを自由に設定できますが動作が遅くなることがあるため、シングルショットや表示の更新レートが遅い場合に適しています。特性を十分に認識していないと、重要な信号、グリッチ、異常信号などをフィルタリングして取り除いてしまうことがあります。

FilterVu可変ノイズ・フィルタ

当社のMSO/DPO2000シリーズ・オシロスコープにはFilterVu可変ノイズ・フィルタが装備されており、不要なノイズを除去することができます。ノイズ・フィルタの周波数を選択し、表示される波形に適用することができます。ノイズ・フィルタでノイズが除去された波形の他に、ピーク検出(最小値と最大値の取込み)による生データも表示できるため、予期しない高周波グリッチや振幅の大きなノイズを見落とすこともありません(図1参照)。

ノイズ・フィルタのカットオフ周波数は前面パネルで設定できるため、除去するノイズ量を自由に設定することができます。フィルタ周波数のリードアウトが表示されるため、面倒なFFT(Fast Fourier Transform、高速フーリエ変換)を設定する必要なく、どのような周波数のノイズが信号にのっているか確認することができます。このフィルタ周波数の変更はシングルショット波形でも波形取込み停止後でも設定できるため、入念に信号を検証することが可能になります。

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
図1. FilterVu可変ノイズ・フィルタの例。フィルタされた後のきれいな波形の背面に、ピーク検出されたノイズ除去前の取込波形が表示されている

アクイジション処理において、FilterVuでは背景で高周波グリッチやノイズ振幅を表示しながら、柔軟でコントロール可能な後処理のDSPフィルタを使い、ハイレゾ・モードと同等の高速波形更新を実現しています。

背景に表示されるピーク検出波形は、シングルショット波形であってもオシロスコープの周波数帯域を使ってピークを捉えることができます。これは、最も遅い時間軸設定であっても、最も高速の時間軸設定で取込めるグリッチを表示することができるということです。

ハイレゾ・モードと同様、FilterVuによるフィルタリングはすべての時間軸設定で機能するものではありません。時間軸を高速に設定すると、設定できるフィルタの範囲は狭くなります。最高サンプル・レートとなる時間軸設定では、ノイズ・フィルタで使用するサンプル数が減るため、ノイズ・フィルタは機能しなくなります。多くの時間軸設定では、オシロスコープの表示のためのサンプル・レートを落として動作するため、フィルタ処理に使用できるサンプルが多くなります。オシロスコープの表示のためのサンプル・レートが最高サンプル・レートあるいはそれに近いサンプル・レートになると、フィルタ処理に使用できるサンプルがほとんどなくなるため、FilterVu機能は抑えられます。高速な時間軸設定では、ノイズ低減のためにはアベレージ・モードが適しています。

FilterVuは、繰返し性のある波形でも、繰返し性のない波形でも、シングルショット波形でも使用できます。フィルタの周波数設定範囲が広いため、本来の信号を変形させることなくノイズのみを十分に除去することができます。FilterVuは、帯域制限フィルタに比べて低い周波数(1MHz以下でも)を除去することができ、ハイレゾ・モードと違い、信号をわかりにくくしてしまうような高周波成分も取り除くことができます。さらに、背景でピーク検出が実行されるので重要なグリッチを見落とすことがありません。ハイレゾ・モードを超える機能として非常に有効です。

FilterVuは、エイリアシングの影響を防ぐこともできます。ノイズ・フィルタの周波数を、各時間軸で設定可能な最も低い周波数に設定し、ズームをオフして波形取込みを実行した場合、エイリアシングの原因となる高周波成分も1%未満しかフィルタを通過することができません。これは、エイリアス周波数が除去されるだけであり、観測する信号は除去されません。

FilterVu可変ノイズ・フィルタによるノイズの低減

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
FilterVuでスイッチング電源の電源投入時の様子を取込んだ例を示しています。画面左側に小さな負のスパイクが観測されており、FilterVuのグリッチ取込み機能によってこのスパイク(赤で囲まれた部分)が表示されています。従来のオシロスコープでは、このグリッチは見落とされることがあます。
2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
この波形は、上と同じシングルショット信号を、フィルタのカットオフ周波数を550kHzに変更して取込んだ例です。画面右側に見えていた発振がなくなっていることがわかります。画面右上のノイズ・フィルタ設定を比べると、この発振は550kHzから1.1MHzのものであることがわかります。このような解析は、連続した波形取込みを停止した場合でも、シングルショットによる取込みでも行うことができます。このような場合でも、背景のグリッチ取込波形にスパイクが表示されています。前景にフィルタされた波形が表示された場合でも、背景にはグリッチが表示されます。

まとめ

ノイズは、すべての電気回路設計やデバッグ作業におけるやっかいな問題です。このアプリケーション・ノートでは、測定におけるノイズの低減、理解、特性評価のためのオシロスコープ・ツールを紹介しました。当社MSO2000シリーズ、DPO2000シリーズ・オシロスコープのFilterVu可変ノイズ・フィルタは、このようなノイズ問題に対処するための強力で使いやすいツールです。

さまざまなフィルタとアクイジション・モードの比較

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS
2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS