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ノイズ対策開発事例とMDOによる測定ソリューション -電波新聞 2014/1/16


電波新聞2014年1月16日号に寄稿
筆者: テクトロニクス 鹿取俊介

【はじめに:なぜノイズ対策が必要か】

近年、電気・電子機器の設計・開発において、ノイズ対策は大きな課題の一つになっている。その背景には、まず製品に多くの無線通信デバイスが組み込まれるようになったことが挙げられる。
WiFiやBluetoothといった無線通信デバイスを機器に数多く組み込み、それら無線通信デバイスを正常に動作させるためには、各デバイスが使用する周波数を邪魔する電気信号は取り除かなければならない。そこでノイズは重要な問題となる。
製品自体がノイズの影響を受けやすくなっているということも事実である。回路基板の高密度実装化が進み、狭いグラウンド面上に部品が配置されることにより、グラウンド面のわずかな電圧変動が、回路に大きく影響を与えるようになっている。
また、省エネルギー化の傾向も一因である。例えば自動車は、省エネルギーでエコな製品として、プラグイン・ハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)の普及が進んでいるが、これらの電気・電子回路機構の制御やモジュール間通信には様々なシリアル通信信号が用いられており、これがモータやインバータからの電気的ノイズによって誤動作を起こさぬような対応が必要になる。
つまり、通信技術の進化、高効率化・省エネルギー化に取り組むには、同時にノイズという新たな問題への対応が欠かせない。

【ノイズの発生箇所と特徴】

ここで、電気・電子機器の中で、特にノイズ源となりうる箇所をまとめる。(図1)

image_01_sml

まず、電源回路である。DC-DCコンバータやインバータなど、電源回路には電力を機器にふさわしい形式(AC、DC)に変換する過程がある。高効率・省電力の観点から、スイッチング電源が使われることが増えているが、省電力である反面、スイッチング時のノイズ対策が課題となっている。
スイッチング・ノイズの特徴は、スイッチング時の瞬間的なタイミングで発生する点である。電流の急激な変化によって、インパルス状のノイズが発生する。このノイズは高周波数帯域に拡がるノイズで、100MHz程度もしくはそれ以上まで拡がることもある。対策として、LCフィルタなどを用いて、ノイズが発生している周波数帯域のレベルをカットする方法がある。
電源線からのノイズの原因は、電流の急激な変化である。消費電流の急激な変化をバイパス・コンデンサで吸収することにより、高周波電流が流れるループの断面積を小さくして発生するノイズのレベルを下げることができる。
続いて、信号のノイズについてである。信号線については、クロストーク・ノイズや、インピーダンスの不整合による反射波がノイズの原因となる。
また、クロック源となっている発振器は、大きなノイズ源の一つとなりうる。ここからのノイズが伝搬するのを防ぐためには、ノイズ・フィルタの挿入や、グラウンド面を他の部品のグラウンド面から分離するという対策が重要となる。
ノイズの伝わる経路は、空間中に放射される放射ノイズと、伝送線中を伝わる伝導ノイズに分けられる。さらに伝導ノイズにはノーマル・モード・ノイズと、コモン・モード・ノイズがあるが、コモン・モード・ノイズはコモンモード・フィルタを使用することにより、カットすることができる。
また、回路基板については、電源プレーンとグラウンド面の容量結合によってプレーン共振が起こると、放射ノイズの原因となる。プレーン共振を抑えるためには、共振点にパスコンを挟み、電源とグラウンドの電気的接続点を作ることが対策の一つとなる。

【ノイズ対策上の課題】

ノイズ対策を行う上で、ノイズ試験の周波数範囲の拡大、高効率化(省エネ化)との両立、実装の限界という課題がある。
回路上を流れる信号の周波数が高くなるにつれて、発生するノイズの周波数は高くなる。例えば、EMI(Electro-Magnetic Interference:電磁妨害)の国際規格の一つ、CISPR 22(PC、プリンタなどの情報通信機器が対象)では、従来1GHzのノイズまでが試験対象だったが、6GHzまで拡張された。この背景として、USB3.0やHDMIなどのハイスピード・シリアル・インタフェースの普及や、WiFiなどの無線通信モジュールの増加がある。この流れは、今後テレビなどのマルチメディア機器のノイズ規格にも導入される。
省エネルギー電源については、高効率、と低ノイズ、この両立が課題となる。例えば、スイッチング電源では、電力損失を抑えて高効率な電源を作成するためには、急峻なスイッチングが重要となる。しかし、急峻になればなるほど急激な電流変化が起こり、ノイズは増大する。その両立が難しい。
ノイズ対策にはコストも限られている上、基板上に実装できる部品の数も限られている。バスコンやフィルタなど、ノイズ対策をきっちり行おうとすると、部品の数も増えがちである。しかし、基板上に実装できる部品の数には限りがある。どのようにノイズ対策部品を設置するのが効果的かを効率的に検討することが、設計・開発における課題となる。
また、近年問題になっているのが、製品内でモジュール間のノイズが競合してしまう、いわゆる自家中毒問題である。ノイズの放射を抑えるために、電磁シールド材を用いて外へ漏れるノイズの対策を行いノイズの国際規格試験に合格した場合でも、製品の内部で放射されているノイズが他モジュールに影響を及ぼし、動作に不具合を与える例も報告されている。

【ノイズの時間変動を確認し、ノイズ源を特定】

ノイズの少ない製品を作るには、回路基板の設計段階から、ノイズ対策を念頭に置いて設計することが望ましい。近年は、パスコンの配置決定、伝送線のインピーダンス整合チェック等、ノイズを抑えるための設計・チェックを簡単に行うことができるシミュレーション・ソフトウェアも多く出ている。
それらを用いることで、効率的にノイズの少ない回路基板を作ることが可能になる。しかし、それでもノイズ規格試験に不合格になるケースは多い。その場合は、ノイズの発生源を実測で突き止め対策を行う必要がある。 ノイズ源の特定には、ノイズの時間変化を解析することが重要となる。例えば、ノイズ発生のタイミングが回路上のどの動作に同期しているのかを調べることができれば、ノイズ源特定の大きな手がかりとなる。ノイズの発生源がスイッチングならば、スイッチングのタイミングでのみ広帯域ノイズが発生する。伝送信号にノイズが乗っている場合、その発生時間は伝送信号に同期している。このようにノイズの種類の切り分けを行うのに、 「時間軸解析でノイズの変化を観測する」ことが大きな手がかりとなる。
時間軸解析が可能な測定器はオシロスコープである。オシロスコープの入力にプローブまたはアンテナを接続し、捉えたノイズの電圧波形に高速フーリエ変換(FFT)を行えば、伝導ノイズあるいは放射ノイズのスペクトラムを確認することができる。更に最近では、フーリエ変換に用いる時間軸波形データを時間でゲーティングすることができるオシロスコープも登場してきており、瞬間でのノイズのスペクトラムを確認することも可能となった。

【MDO4000Bシリーズによるノイズ測定】

MDO4000Bシリーズ(写真)は、テクトロニクスが世界で唯一提供する、スペクトラム・アナライザ(以下スペアナ)統合型のオシロスコープである。オシロスコープにスペアナのハードウェアそのものが内蔵されており、スペアナ部分でノイズを測定し、オシロスコープで回路基板上の信号を観測することで、信号と比較したノイズの時間変化を観測することができる。オシロスコープの時間ゲーティングFFT機能を用いるよりも測定感度(ダイナミック・レンジ)が高いため、オシロスコープの感度以下の微小信号(uV単位)も測定することができる。

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図2:MDO4104B-6型ミックスド・ドメイン・オシロスコープ

周波数帯域1GHz、RF周波数幅9kHz-6GHz


さらにMDO4000Bシリーズのスペアナは、スペアナでありながら一度に広帯域な測定ができるという特長がある。例えば、スイッチング・ノイズなどのパルス・ノイズは、通常のスペアナでは取り込み帯域幅の不足により測定することができない。このノイズの全貌を明らかにするには、広い取込帯域幅を持ったスペアナが必要となる。MDO4000Bは、最大3GHz幅の取込が可能なため、パルス・ノイズのスペクトラムの全貌を捉えることが可能である。MDO4000Bシリーズを用いた例として、スイッチング電源からの放射ノイズ測定(図2)を紹介する。

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図3、図4がその測定画面で、それぞれ上画面がオシロスコープ、下画面がスペアナ画面である。オシロスコープでは、スイッチング電源中のPower MOSFET のドレイン-ソース間電圧(CH.1)、ドレイン電流(CH.2)を見ている。合わせて、スペアナ入力から捉えた放射ノイズのレベル変化を、オシロスコープ画面上に表示している。スイッチングのタイミングでノイズが大きくなっていることが確認できる。
また、ノイズ・スペクトラムの時間変化を見ることもできる。スペクトラム・タイムと呼ばれるバーの位置を動かすことで、各時間ポイントでどのようなノイズが出ているかを確認できる。ドレイン電流の立ち上がりでは広帯域なノイズが(図4)、立ち下がりでは狭帯域なノイズ(図5)がでていることがわかる。
オシロスコープの波形と比較しながらノイズ・スペクトラムを見ることで、どの動作がどのノイズの発生原因になっているのか、切り分けることが可能になる。

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図3: MOSFET Turn-On時のスイッチング・ノイズ

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図4: MOSFET Turn-Off時のスイッチング・ノイズ

【まとめ:スペアナ統合オシロスコープによるノイズ対策とコスト削減】

ノイズ対策の必要性は高まっている。限られた時間とコストの中でノイズ対策を行うとき、ノイズ・レベルやノイズ・スペクトラムの時間変動を高感度で見ることができるMDO4000Bシリーズを用いることで、スピーディかつ的確なノイズ対策が可能になる。テクトロニクスでは、今後も革新的な製品をリリースし、技術者の方々に新たな測定・解析法を提案していく。