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プロービングで失敗しないためのオシロスコープ応用講座


組み込みエンジニアにとって、オシロスコープは必須のアイテムです。ところが 実際にオシロスコープを使って測定を始めると、すぐに悩ましい問題に直面し ます。それは、「測定点とオシロスコープをどうやって接続するか」(どうやっ てプロービングを行うか)という問題です。正しい測定のためには、正しくプロー ビングを行うことが必要です。そこで本連載では、この「プロービング」につ いて解説していきます。

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS

第1回 2008/08/19 連載

いい加減なプロービングが悲劇を招く

    →1 ページ

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS

第1回 2008/08/19 連載

受動プローブを使いこなそう

    →2 ページ

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS

第3回 2008/08/26 連載

グラウンドリードの罠

    →4 ページ

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS

第4回 2008/08/29 連載

注意しないと壊れるぞ !!- アクティブプローブ

    →6 ページ

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS

第5回 2008/09/02 連載

差動プローブを使う

    →9 ページ

2001 SPECIFIED CALIBRATION INTERVALS

第6回 2008/09/05 連載

注意しないと命にかかわるぞ!!- 高電圧プローブ

    →13 ページ

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第7回 2008/09/09 連載

フローティング測定に最適- 高電圧差動プローブ

    →16 ページ

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第8回 2008/09/16 連載

電流波形を観測する電流プローブ

    →19 ページ

1. いい加減なプロービングが悲劇を招く

入力コネクタと同軸ケーブル

 多くのオシロスコープは同軸構造の入力コネクタ(写真 1)を 備えているので、測定点も同軸構造の出力コネクタならば、測定 点とオシロスコープを同軸ケーブル(写真 2)により接続できま す。信号伝送において、これは理想的な接続です(注 1)。とこ ろが多くの場合、測定点は同軸構造の出力コネクタではありませ ん。スクウェアピンであったり、IC のリード(IC の " 足 ")であっ たり、ボードのビアであるため(写真 3)、機械的に接続するの さえ容易ではありません。機械的な接続ができたとしても、次に はさらに複雑かつ困難な電気的接続問題が浮上します。

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▲写真1 入力コネクタ
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▲写真2 同軸ケーブル
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▲写真3 測定点 — ここにどうやって接続するかが問題
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注1 ただし、インピーダンス整合に注意を払う必要が ある。伝送経路のインピーダンスは同軸ケーブルのイン ピーダンスにも支配される。測定点の出力インピーダンス、 ケーブルのインピーダンス、オシロスコープの入力インピー ダンス、それぞれが整合している必要がある。整合して いない場合は、十分な配慮を要する。

2本のケーブルで失敗

測定点と接続し、信号をオシロスコープに導くことを「プロー ビング」と呼びます。オシロスコープで扱う信号の周波数を考え ると、多くの場合は 2 本のライン(シグナルラインとグランドラ イン)による伝送がなされます(注 2)。測定点と接続し、信号 をオシロスコープに導くことを「プロービング」と呼びます。オ シロスコープで扱う信号の周波数を考えると、多くの場合は 2 本 のライン(シグナルラインとグランドライン)による伝送がなさ れます(注 2)。2 本の接続で済むのですから、そこらに転がっ ている 2 本のケーブル(写真 4)を使ってみてははどうでしょう。 果たして、使い物になるのでしょうか。

実際にテスタケーブルでプロービン グし、そのケーブルを経由したパルス 波形を見てみましょう(図 1)。本来の パルス波形は上の波形で、立上り直後 がほぼ直角で綺麗な形です。テスタケー ブルを通過した波形は下の波形です。パ ルスが立ち上ってから数 100ns くらい の時間、波形は大きな振動(リンギン グ)を繰り返し、本来の波形とは違った 形に歪んでいます。これは周波数の異なるサイン波の振幅を比べてみてもよく分かります(図 2)。信号 発生器のサイン波の信号振幅を 1V に保ちながら、その周波数だ けを変化させてみました。信号発生器からの振幅は一定なのにテ スタケーブルを通過した振幅は大きく変化してオシロスコープに 伝わったことが分かります。約 4MHz を超えると振幅が変化を 始め、17MHz で約 2 倍、24MHz ではなんと 7 倍以上(誤差+ 700%)もの大きさに見えます。その後 34MHz で約 1V の振幅 に戻り、それ以上の周波数では信号はケーブルを通過できず、振 幅が減少し続けます。この動きを周波数特性で描くと図 3 のよ うになります。

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▲写真4 このケーブルは果たして使いものになるのだろうか

注2 20GHzくらいの周波数にもなると、導波管と呼ばれる中空の金属筒が使われることもある。

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図1 写真 4 のケーブルを使用したときの波形上の波形が信号発生器からのもので、下の波形がケーブルを使用したもの。下の波形は振動(リンギング)が生じている
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図2 写真 4 のケーブルを使用したときの波形周波数が変わると振幅が大きく変動する
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図3 写真 4 のケーブルの周波数特性

プローブに関する基本的な理解

測定点とオシロスコープは、ただつなげば良いというものでは ないのです。そこで、信号の正しい伝送ができるよう十分に考慮 された「プローブ」と呼ばれる接続ツールが登場することになり ます。その詳細は次号にゆずり、ここではプローブに関する認識 を新たにしておきましょう。

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いい加減なプロービングをすると、後で大変な事態に陥ることになる

 誤解を恐れず言いますが、「完璧なプローブなど世の中にない」 のです。言い換えると、プローブを被測定回路にプロービングし た時点で「被測定波形は変形する」のです。その変形を最小にす べく、被測定波形を知り、どの種類のどの性能のプローブを選 び、どのような接続方法でどう使うべきかを知らなければなりま せん。" プロービング " とはプローブの不完全を補うためのノウ ハウのかたまりなのです。このノウハウは 「知っていればさらに良い」ものではなく、 「知らなかったために失敗し、自分の信用 を失う」ほど怖いものなのです。この連載 では、プロービングで失敗しないよう、そ の謎を解き明かし、正しいプロービングテ クニックについて解説していきます。

2. 受動プローブを使いこなそう

受動プローブ

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写真1 受動プローブ

 オシロスコープで使用されるプローブの中で、もっとも汎用的 なプローブは「受動プローブ」(または受動電圧プローブ)と呼 ばれるものです(写真 1)。受動プローブは、多くのオシロスコー プに標準で添付されています。信号の正しい伝送ができるよう十 分に考慮されたプローブなので、これさえ使えば何の苦労もなく 正しいプロービングができるかと 言えば、実はそうではありません。 受動プローブという正しい信号伝 送を可能とするツールが提供され ているだけで、正しい測定のため には正しく使いこなすノウハウを 知る必要があるのです。

プローブ補正による失敗例

 まず、受動プローブはオシロスコープとの組み合せによる使用前調整(これを「プローブ補正」という)が必須です。これを怠ると、受動プローブを使う意味がありません。それどころか、受動プローブ自身が大きな測定誤差の発生原因になってしまうのです。 図 1 に実例を示します。

図 1 は発信器から発生させた周波数 10kHz、振幅 1V の安定 したサイン波(①の波形)を、補正不良のプローブで観測した例 です。補正不良である上下 2 つのサイン波(②と③の波形)は振 幅が違っています。大きいものは 1.112V(誤差+ 11%)、小さい ものは 0.848V(誤差- 15%)と測定されています。

続いて、図 2 をご覧ください。図 2 は、周波数 1kHz、振幅 5V の安定したパルス波であるにもかかわらず、上下 2 つのパル ス波(②と③の波形)の形そのものが異なります。先端部の振幅 に注目してみると、本来 5V のはずの電圧が、上の波形は 6.4V、 下の波形は 3.72V となっています。プローブ補正がずれた場合、 測定結果はこんなに大きな誤差を生じてしまうのです(図 3)。

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図1 プローブ補正を怠った例
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図2 誤ったプローブ補正を行った例
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図3 プローブ補正の影響受動プローブの高域周波数特性をフラットに保つように調整する必要がある

振幅に差が出る理由

 このように振幅に差が出る理由は、プローブとオシロスコープ の組み合わされた周波数特性が平坦ではないからです。図 4 に プローブ補正が適切でない場合、周波数特性がどのくらい平坦で なくなるかを示します。1kHz を超えると影響が現れ、平坦では なくなります。特に 10kHz 以上になると大きな誤差が見られま す。プローブ補正という使用前調整がなされていない場合、本来 1000mV であるはずの電圧が- 15%にも+ 10%にも見えてしま うのです。

特性が平坦でなくなる理由

受動プローブがこのような性質をもつ原因は、その構造にあり ます。受動プローブは、オシロスコープの入力部をそのまま発展 拡大したものなのです。受動プローブにより、オシロスコープは さらに大きな電圧を測定できるうえに、プローブを接続した際の 負荷に与える影響をおおいに低減することができます。したがっ て受動プローブとオシロスコープの関係は密で、共に 1 つの電気 回路を形成します。この回路を非常に簡素に表すと(これを等価 回路という)、図 5 のように描けます。

この電気回路において平坦な周波数特性を得る条件は、式 1 が成立することです。構成要素の R1 と R2 は固定ですが、オシ ロスコープの入力容量 C2 はオシロスコープの型名ごとに異なる 値で、チャネルによっても異なります。このため、式 1 が成立 するためには、つねにプローブ側において C1 を調整する必要が 生じます。これがプローブ補正です。調整することにより、初め て式 1 の関係が成立し、 平坦な周波数特性が実 現できます。

プローブ補正の方法

プローブ補正のための作業は簡単です。オシロスコープのフロ ントパネルにある Probe Compen 信号をプローブに入力し、調 整用ドライバを回して図 6 の真ん中の波形のように、先端部を 直角にするだけです(写真 2)。この調整は受動プローブとオシ ロスコープを組み合わせたときに毎回必要な調整です。例えば 受動プローブを職場の 同僚に貸して、戻って きたときなどは要注意 です。同僚はほかのオ シロスコープに合わせ てプローブ補正をして しまったかもしれませ ん。つまり、C1 の値が 変わっているかもしれ ないのです。受動プロー ブをオシロスコープに 接続するたび、プロー ブ補正を行うよう習慣 づけてください。

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写真2 プローブ補正の例
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図4 プローブ補正の影響ここでは Tektronix 製 P5050 型プローブを使用
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図5 受動プローブとオシロスコープの等価回路
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図6 プローブ補正の方法調整用ドライバで真ん中の波形のように先端部を直角にする

3. グラウンドリードの罠

グラウンドリードによる失敗

測定点へのプロービングにおいて、多くの場合は付属のグラ ウンドリードのワニ口クリップとプローブ先端針を接続するこ とでしょう(写真 1)。ところが周波数が高くなると、この接続 は問題を生じます。実例をご覧ください(図 1)。プローブのグ ラウンドリードを使ってサイン波信号発生器につなぎ、オシロ スコープで波形振幅を観測しました。信号発生器の信号振幅は 1V に保ちながら、その周波数 だけを変化させてみました。信 号発生器からの振幅は一定なの に、プローブを通過した振幅は 大きく変化していることが分か ります。50MHz を超えると振 幅が変化を始め、59.9MHz と 100.1MHz ではサイン波が極小値 と極大値をとっています。この周波数の振幅を測定したら、その結果は− 20%、+ 50%もの誤 差を生じます。ちなみに理想的なプロービングをした場合のプ ローブ通過波形は図 2 のようになります。周波数が変わっても、 振幅はほとんど変わりません。パルス波の形の変化でもグラウ ンドリードの影響を見ることができます。理想的な接続を行った ②の波形に比べ、グラウンドリードを使った①の波形は大きく 振動しています(図 3)。この状態でマスクテストをしても、テ ストはパスしないでしょう。グラウンドリードによる影響は周 波数特性でも見ることができます。理想的なプローブ接続にお ける特性はほとんど平坦なはずですが、50MHz あたりから振幅 に変化が表れ、60MHz 付近において大きな谷を生じ、100MHz を越えると激しく特性が変動しています(図 4)。

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写真1 ロービングの例グラウンドリードのワニ口クリップとプローブ先端針を接続

 ここで示した例は出力インピーダンスが 50 Ωの信号発生器を使った場合の波形ですが、グラウンドリードの使用が測定結果に深刻な影響を与えることは事実です。一概には言えませんが、数 10MHz を超える周波数成分を持つ信号のプロービングにおいては、付属のグラウンドリードは要注意です。

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図1 グラウンドリードを使ったプロービングの失敗例
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図2 理想的なプロービングの例
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図3 グラウンドリードを使用した際のパルス波(①の波形)
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図4 グラウンドリードを使用した際の周波数特性

特性悪化の理由

 ここで「グラウンドリードを標準付属しておきながら、何を言 う !」とお怒りにならず、その原理を知ってください。原理を知 れば取るべき対応策が見えてきます。プロービングにおいて、被 測定回路とプローブの作る等価回路の一例を示します(図 5)。 Lg は受動プローブのグラウンドリードの誘導成分(インダクタ ンス)、Cp は受動プローブの入力容量成分(キャパシタンス)で す。これらの Lg と Cp が共振(固有の周波数において大きなエ ネルギーの流入出現象)を起こし、元信号 Esとは異なる波形Eo を作り上げてしまうのです。そこで、この共振を防ぐことが肝心 です。プロービングにおける共振を防げば、元波形に忠実な波形 が得られ、正しい測定ができます。なお、共振は Lg と Cp との 直列共振です。共振周波数は式 1 により求められます。Lg を小 さくするか、Cp を小さくすれば改善されます(固有の共振周波 数を高くし、測定機器の周波数帯域の帯域外へ押し出してしま う)。入力容量の小さな受動プローブを選ぶことにより、Cp は幾 分小さくできますが、だいたい 10pF 程度の値です。10 倍も改 善するのは困難です。ところが Lg はグラウンドリードの長さに 直結し(1mm 当たり数 nH くらい)、短くしさえすれば、10 倍 くらいの改善が容易です。

 
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図5 被測定回路とプローブの作る等価回路の一例
 

受動プローブ特性改善アダプタ

写真 2 と写真 3 の先端アダプタをごらんください。これは短 いグラウンドリードアダプタです。通常のグラウンドリード(写 真 4)と比べればその短さは明らかです。これらを使った測定で は大きな改善が見られ、サイン波の振幅誤差は小さく、パルス波 の変形も極小になります。受動プローブ接続ポイントをあらかじめボードに設けておけば、理想的なプロービングとなります(写 真 5)。つまり、グラウンドリードによる失敗は、受動プローブ のグラウンドリード長を短くすることで防げます。

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写真2
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写真3
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写真4
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写真5 理想的なプロービング

受動プローブの2つの限界

しかし、受動プローブには逃れられない問題が 2 つ残ります。 1 つ目は周波数帯域です。およそすべての受動プローブの周波数 帯域は 500MHz 止まりなので、それより高い周波数は観測でき ません。2 つ目は 10pF もある受動プローブ自体の入力容量です。 受動プローブの入力容量が波形を変形させる場合があります。こ れらが受動プローブの限界です。そこで、さらに高い周波数の測 定や軽い負荷を実現できる新たなプローブが求められます。

4. 注意しないと壊れるぞ!!—アクティブプローブ

今回は「アクティブプローブ」(「FET プローブ」とも呼ばれる)について述べていきます。アクティブプローブは高価で壊れやすいため、エキスパートだけが使いこなすことのできるプローブです。

高性能なアクティブプローブ

受動プローブの限界を超え、さらに高い周波数の測定や軽い負 荷を実現できるプローブが 「アクティブプローブ」です (写真1)。アクティブプロー ブは、先端の入力部に半導 体素子を用いています。受 動プローブ(本連載第 2 回 目 2 ページ〜を参照)のよ うな構造ではないため、面 倒なプローブ補正も不要で す。半導体素子の小さい入 力容量が寄与して、アクティ ブプローブは自体の入力容量 も非常に小さな入力容量値を 実現しています。受動プロー ブに比べると優に 10 倍以上 の改善が図れ、1pF より小 さな入力容量のアクティブプ ローブもあります。

本連載第 1 回目(1 ページ〜を参照)に述べたように、プローブを被測定回路に接触させただけで、多かれ少なかれ波形に影響を与えます。その一因が入力容量です。周波数が高くなると入力容量は重い負荷となり、被測定回路の動作を変えます(式 1)。

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写真1 アクティブプローブ — グランドを基準としたシングルエンド信号を取り扱うプローブ。「FET プローブ」とも呼ばれる

グラウンドリードのインダクタンスと共振回路を形成し、被測 定波形を変形させます(本連載第 2 回目 2 ページ〜を参照)。ア クティブプローブはこれらの原因である入力容量 Cp が小さいた め、高い周波数においても優れた特性が期待できます。高い周波 数成分を含む高速パルス波形の観測において、同じ長さのグラウ ンドリードを使い、受動プローブとアクティブプローブの特性を 比べて見ましょう(図1)。受動プローブの波形(上の波形)に比べ、 アクティブプローブの波形(下の波形)はパルス立ち上り部のリ ンギングが小さくなり、パルスをより忠実に再現しています。同 様に周波数特性を比較して見ましょう(図 2)。15cm のグラウ ンドリードが付いた受動プローブでは 50MHz を過ぎたあたりか ら振幅が変化し始めています。一方、やはり同じ 15cm のグラウ ンドリード付きのアクティブプローブは 120MHz あたりまでは振幅の変化がほとんどなく、振幅誤差も 3%以内に収まっています。受動プローブに比べ、はるかにグラウンドリードの影響を受けにくいことが分かります。

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図1 受動プローブとアクティブプローブの特性上の波形が受動プローブ、下の波形がアクティブプローブ
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図2 15cm のグラウンドリードを使用した場合の周波数特性
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図3 プローブの先端に長いリードを付けると波形が歪む

プローブ先端を延ばすことによる失敗例

これで入力容量が 10 倍くらい改善し、グラウンドリードの延長 による影響を受けにくくなることが分かりました。しかし、これ に安心して長いリードを使用するのは要注意です。特にグラウン ドリードではなく、プローブの先端(シグナル入力部)に長いリー ドを付けると、リードのインダクタンスが共振を起こしやすく、容 易に波形が歪みます(6 ページ図 3)。測定ポイントがグランドか ら離れている場合は、グラウンドリード側を延長するように努め、 プローブ先端の延長は最小にとどめましょう。この観点から、Yリー ドアダプタではプローブ先端を延長することになるので、使用には 十分な注意が必要です(写真 2)。Y リードアダプタを使用して取 り込んだパルス波形は、大きなリンギングを生じます(図 4)。

周波数特性も見てみましょう。Y リードアダプタを使った 周波数特性は 90MHz を過ぎると共振が始まり、288MHz では 17.4dB ものピーク値となり ます。このアクティブプロー ブ本来の素直な周波数特性 と比べれば、いかにリード の延長が特性を悪化させる かが分かります(図 5)。Y リードアダプタを使用する 場合は、数十 MHz までの 周波数範囲にとどめる必要 があります。

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写真2 Y リードアダプタで延長したプローブとグラウンドリードで延長したプローブ

抵抗器を挿入して失敗を回避

そもそも、アクティブプローブの扱う周波数は受動プローブのそれに比べずっと高い周波数なので、リードの延長は極力避けたいものです。しかし延長せざるを得ない場合は、まずグラウンドリード側を延長しましょう。プローブ先端側を延長しなくてはならない場合は、20 〜 60Ωの小抵抗を介して信号をプローブ先端に入力する効果的な手法があります(図 6)。

図 6 の例では、Y リードアダプタによる大きな共振波形(①の波形)に比べ、Y リードアダプタに 60Ωの小抵抗を直列挿入した波形(②の波形)は、共振がダンプされ共振波形の振幅を小さくできます。

見分け方のポイント

この例では入力した波形がきれいな基準信号だと分かっているので、歪んだ波形が現れた場合、プロービングの問題だと分かります。しかし、実際のプロービングにおいては、現れた波形が本来の形なのか、それとも LC 共振による創られた形なのかを見極めなければなりません。LC 共振波形を実波形だと誤認しては大失敗です。

見分け方は簡単です。延長したリードや Y リードアダプタを指で触れるかひねるかして、リードの位置や引き回しを変えてみてください。共振による波形ならば、リードのインダクタンスが変化し、歪み方が変わります。変わるようなら本当の波形ではなく、LC 共振でつくられた波形です(図 7)。

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図4 Y リードアダプタを使用すると大きなリンギングが発生
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図5 Y リードアダプタを使用したときの周波数特性
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図6 20 〜 60Ωの小抵抗を介して入力①の波形は Yリードアダプタだけを使用した場合、②の波形は Yリードアダプタに 60Ωの小抵抗を直列に挿入した場合
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図7 延長したリードまたは Y リードアダプタを指でひねったときの波形①の波形は Y リードアダプタをひねらなかった場合、②の波形は Y リードアダプタをひねった場合
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図8 アクティブプローブの入力部分の等価回路

入力抵抗で失敗

アクティブプローブの入力を最もシンプルな等価回路で描く と、入力抵抗と入力容量の並列回路となります(7 ページ図 8)。 入力容量 Cp が小さいことは既に説明しましたが、アクティブプ ローブで注意しなくてはならないことのひとつは、入力抵抗 Rp が多少小さく、20kΩ〜 1MΩ(機種による)くらいの値だとい うことです。被測定回路の出力抵抗 Ri が大きな場合は注意が必 要です。本来の振幅 Es が分 圧され、実際より小さな振幅 Ep に見えます(式 2)。

入力抵抗 Rp が 20kΩのア クティブプローブを例に取れ ば、出力抵抗 Ri が 4.7kΩの 回路を測ると、19%も小さく見えます。省電力のフラットパネ ル駆動回路や C-MOS 水晶発信回路等の高インピーダンス回路に プロービングする際には、注意が必要です。しかし、全周波数 帯域に渡る入力抵抗(入力インピーダンス)として考えた場合、 アクティブプローブは優秀です。低い周波数では受動プローブ (10MΩという高い入力抵抗により負荷が軽くなる)が魅力的で すが、高い周波数になると瞬く間に低下します。一方でアクティ ブプローブは入力インピーダンスがあまり低下しないので、高 い周波数においても軽い負荷となり、被測定回路に与える影響 を小さくできます(図 9)。

壊れるぞ ! —大きな振動は加えない

 さらに注意しなくてはならないことは、アクティブプローブに 大きな振幅を印加しないことです。プローブ入力端子がほぼ半導 体素子に直結された構造のため、大きな振幅の波形を加えると壊 れます。ダイナミックレンジ±4V、非破壊電圧±30V と規定さ れたアクティブプローブに、実際に大きな振幅の波形を入力して みましょう。+5Vを超えると頭のつぶれが目立ち始め、+6.6V、 +10Vの振幅では完全に形が歪んでいます(図 10)。

振幅が非破壊電圧+30Vを超えたなら、このアクティブプロー ブは壊れます。−側もほぼ同じように歪み、−30Vを超えたら壊 れます。つまり、このアクティブプローブに 印加する波形は −4V〜+4V、8Vp-p のダイナミックレンジ内に収まる小さな 波形でなくてはなりません。ダイナミックレンジを超えると波形 は歪んでしまい、正しい測定ができません。

壊れるぞ! —静電気に注意

このアクティブプローブの例では、壊れてしまう電圧(非破壊電圧) はたった±30V です。"パチッ"と放電音のするほどの静電気が印加 されるとひとたまりもありません。「音がしなければ大丈夫」などと 夢にも思わないでください。放電音がしなくても、静電気放電はあち らこちらで発生しています。たった数十Vの静電気放電によってアク ティブプローブは簡単に壊れるものなのです。静電気対策用リストバ ンドは万能ではありません。ケーブルに溜まった静電気や、ボードの 一部に留まる静電気に対しては、役に立たないこともあります。測定 点の静電気の放電を行った後、プロービングする必要があります。

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図9 アクティブプローブは高い周波数において被測定回路に与える影響を小さくできる
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図10 アクティブプローブは大きな振幅を印加できない
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図11 プローブのダイナミックレンジを最大にする

入力範囲を拡大する方法

 アクティブプローブを歪ませずに印加できる電圧範囲(ダイ ナミックレンジ)は小さく、この例ではたった±4Vです。0 〜 +5Vの TTL 信号さえその範囲を超えてしまいます。このよう なアクティブプローブを使って TTL 信号を測る手法がありま す。それは、オシロスコープのオフセット機能を使う手法です。 ±4V、8Vp-p のダイナミックレンジを正方向、負方向にシフト できるのです。つまり、8Vp-p を−8V〜 0Vにも 0 〜+8V に もできるのです。図 11 は、オシロスコープのオフセット電圧を +4Vと設定し、+4Vを中心に±4V、つまり 0V 〜+8V の範囲 に設定した例です。こうすれば、0 〜 5Vの TTL 信号は無理な く測定できます。

アクティブプローブを使えるのはエキスパートだけ

アクティブプローブは安価ではありません。壊さないために、 波形振幅がプローブの限界を超えていないか、静電気破壊の恐れ はないか、常に注意を払い続ける必要があります。それができる エキスパートだけが、アクティブプローブの優れた性能を享受で きます。使用に際しての煩わしさを加味しても、アクティブプロー ブは大いに価値のあるプローブです。その高い性能は積年の問題 を解決し、大きな利点をエンジニアにもたらします。

5. 差動プローブを使う

 今回は差動プローブについて述べていきます。差動プローブを使いこなすには熟練した技術が必要です。くれぐれも静電気などで壊さないよう、慎重に扱ってください。

差動信号が主流

USB や Ethernet、SATA から PCI-Express まで、今日の多 くの信号は、数々のメリットを有する「バランス伝送」と呼ばれ る方式で伝送されます。バランス伝送にはペアとなったワイヤが 使われており、そこを極性が互いに反転した差動信号(図 1)が 流れます。この差動信号は、既述のアクティブプローブ(本連載 第 4 回目 6 ページ〜を参照)を使ってプロービングできますが、 いくつかの困難が伴います。アクティブプローブはグラウンドを 基準に信号を測定するプローブなので、2 本の信号線を流れる 2 つの信号をプロービングするためには、2 本のアクティブプロー ブが必要です。オシロスコープのチャネルも 2 つ占有します。2 本のプローブからの信号は、オシロスコープ機能(MATH)の 引き算(正側シングルエンド電圧−負側シングルエンド電圧)に より、ひとつの差動信号波形に合成しなくてはなりません(図 2)。 この引き算においてプローブに特性差があれば、その波形は正し く表示されません。特に高い周波数においては 2 本のプローブの 特性に差が生じやすく、波形品質が劣化しがちです。

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図1 差動信号(電圧)グラウンド基準の 2 つの信号(電圧)から成る信号
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図2 2本のプローブにより差動信号が求められる
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図3 差動プローブのイメージ1 本のプローブで直接、差動信号(電圧)を測定できる

差動信号に最適なプローブ

 差動信号のプロービングに最適なプローブは「差動プローブ」 と呼ばれるプローブです。これは、特性のぴったり揃った 2 本の アクティブプローブをひとつにまとめたものです。入力部分はプ ラス入力端子とマイナス入力端子があり、直近に差動素子が置か れています。両入力端子は正側シングルエンド電圧と負側シング ルエンド電圧に接続します(図 3)。差動プローブを使用すれば、 オシロスコープのチャネルもひとつ使用するだけで済みます(こ れらの入力端子に加え、プローブ先端にグラウンド端子を装備し た差動プローブもある)。

差動動作電圧と対地動作電圧を 知らないと……失敗 !!

プローブ先端の 2 入力間に加えることのできる作動電圧(差 動動作電圧)のみならず、差動プローブの一方の入力とグラウン ド間に加えることのできる電圧にも制限があります。これを差動 プローブの規格では「対地動作電圧」(コモンモード電圧やコモ ンモード入力電圧とも呼ばれたこともある)と呼びます。差動動 作電圧± 8.5V、対地動作電圧± 7V という規格を持つ差動プロー ブを例にとって、加えることのできる波形例を描いてみました (10 ページ図 4)。どの波形も± 7V という対地動作電圧を超え ていないことに注目してください。

 
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図4(a) 差動プローブに加えることのできる波形の例丸付が正側シングルエンド波形、三角付が負側シングルエンド波形。差動動作電圧±
 
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図4(b) オシロスコープに表示される波形
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図5 差動プローブの波形が歪む例

グラウンドからの電圧で壊れるぞ !! —過大対地電圧で失敗

多くの場合、プローブ先端のグラウンド端子を接続しなくても 差動プローブは動作するので、ある落し穴にはまりがちです。そ れはプラスとマイナス間の電圧(差動電圧)のみに気を取られて、 グラウンドからの電圧(対地電圧)をチェックしない場合に起こ ります。対地電圧がプローブの対地動作電圧を超えてしまうので す。対地動作電圧を超えた波形は歪み始め、やがて差動プローブ が壊れます。 図 5 は対地電圧が 7Vを超えたとき、差動プロー ブ波形が歪んでいく実例です。差動プローブは過大な対地電圧に 弱く、15Vを超えると壊れるものも多くあります。

グラウンド接続による失敗

 被測定回路がアースに接続されていない(フローティング) 状態では、対地電圧は複雑になります。被測定回路の発生する 電圧に、被測定回路のもつフローティング電位が加わります。 この電位が加算されたり、減算されたりするからです。これらの合算波形がプローブの対地動作電圧を超えるか超えないかに よって波形品質が変動します。均一だった波形(11 ページ図 6) の品質が、電源周波数に同期したフローティング電位により悪 化と軽減を繰返す例を 11 ページ図 7 に示します。

 このフローティング電位の影響から逃れる方法は、被測定回 路のフローティングを止めることです。プローブ先端のグラウ ンド端子を被測定回路に接続すれば、被測定回路は接地されフ ローティングではなくなるので、電位はゼロになります。しか し、先端にグラウンド端子を装備していない差動プローブもあ り、フローティングを止めるわけにいかない被測定回路もあり ます。その場合は、対地電圧(被測定回路の発生する電圧+被 測定回路の持つフローティング電位)がプローブの対地動作電 圧を超えていないことを確認してください(フローティング電 位は、プローブのグラウンドを対地にプローブの先端を対象点 に繋げば簡単に測れる)。差動プローブは十数ボルトの電圧で 壊れるものも多くあります。この程度のフローティング電位は、 あらゆるところに存在します。「大きな差動電圧を測っていない のに、いつの間にか差動プローブが壊れる」という場合は、こ のフローティング電位が原因かもしれません。

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図6 波形品質が均一な波形の例プローブの先端のグラウンド端子を接続した場合、または被測定回路がフローディングしていない場合、どの三角波も均一に歪んでいる(比較のため、規格をわずかに超えた対地電圧を故意に印加している)
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図7 電源周波数に同期したフローティング電位により悪化と軽減を繰返す例被測定回路がフローティングしている場合、被測定回路とアース間のフローティング電位が、被測定回路自体が発生する電圧に加算・減算される。したがって、三角波の歪みは一定ではなくなる。ある部分では対地動作電圧を大きく超え、歪みが悪化したり、またある部分では対地動作電位内に収まり、歪みが好転したりする

差動動作電圧に注意

差動プローブは、プラス端子とマイナス端子間に印加できる電圧(差動動作電圧)にも限界があります。この電圧を超えた場合も波形は歪み始め、やがて壊れます(図 8)。

静電気で壊れるぞ!!

 差動素子にほぼ直結された構造のため、差動プローブは大きな 入力電圧が苦手です。" パチッ " と放電音のする静電気などが印 加されるとひとたまりもありません。十数ボルト程度の放電音の しない放電によっても簡単に壊れます。「大きな電圧を測ってい ないのに、いつの間にか差動プローブが壊れる」という場合は、 音のしない放電が原因の可能性があります。静電気対策用リスト バンドを着用するのは当然ですが、これだけでは万全ではありま せん。リストバンドもケーブルに溜まった静電気やボードの一部 に溜まる静電気に対しては役に立ちません。測定点の静電気を放 電した後、プロービングする必要があります。

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図8 差動動作電圧を超えると波形が歪み、やがて壊れる

先端に抵抗器をつけて改善

 実際のプロービングにおいては、被測定点が狭い場所にあり差 動プローブ先端を触れさせることができないこともあります。こ の場合、差動プローブの先端をケーブルで延長して被測定点につ なぐ方法が使われます(写真 1)。しかし、本連載第 4 回目(6 ペー ジ〜を参照)でも述べたように、先端を延長することは LC 共振 を生み、波形品質を劣化させることを知っておかなければなりま せん。そこで先端に 20 〜 60Ωの抵抗器を取付けて LC 共振をダ ンプする手法が有効です。図 9 のように、大きなリンギングが ある①の波形に比べ、抵抗入り延長リードを使った②の波形は大 きな改善が見られます。しかし、抵抗入り延長リードを使った差 動プローブが理想かというとこれも違います。最も波形特性に優 れた方法は、先端部のみを延長させたような方式の差動プローブ を使うことです(写真 2)。受動素子によるアッテネータネット ワーク部がプローブ本体から分離されており、狭い測定点にもア クセスできます。この手の差動プローブは非常に性能が高く(例 えば周波数帯域が 4GHz 以上)、パルス特性もリンギングのほと んどない最高の特性を示します。

図 10 は抵抗入り延長リードを使った差動プローブと比較した波形です。先端が延長された方式の差動プローブはほとんどオーバーシュートのない理想的な特性をしています。

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図9 抵抗入り延長リードを使用すると改善する
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図10 抵抗入り延長リードを使った差動プローブと先端が延長された方式の差動プローブとの比較
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図11 差動プローブにだまされるな!!

差動プローブは万能

 差動プローブは差動信号も測れるうえに、グラウンド基準の信 号(シングルエンド信号)も測れます。使い方は簡単で、プラス 入力端子をシグナルに、マイナス入力端子をグラウンドに接続す るだけです。振幅が 2 倍になるでもなく、特別に意識すること なくアクティブプローブのように使えます。欠点はアクティブプ ローブより高価であること、「抵抗なし延長リード」を使うと大 きなリンギングが出ることです。

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写真1 差動プローブの先端をケーブルで延長して被測定点につなぐ方法
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写真2 先端部のみを延長させたような方式の差動プローブの例

差動プローブにだまされるな !!

 差動プローブを使ってシングルエンド信号を観測している場 合、プローブのマイナス入力端子が測定点に接続されていないの に、正しいような波形を示すことがあります。マイナス側が外れ てオープン状態になっても、オシロスコープと被測定回路の間は 共通グラウンドによって繋がれています。少々長いグラウンド経 路ですが、プラス入力端子とこのグラウンドによりシングルエン ド測定ができてしまいます。少し遅い信号を観測する場合は、大 きく波打つ波形形状によりこの異常にすぐ気付くのですが、図 11 のように高速の信号を観測する場合にはだまされてしまいます。

高速の信号をプロービングする場合、プローブの入力端子が 2 つとも確実に接触していることを確認してください。とはいえ手 動で 2 つの入力端子を均等に接 触させることは簡単ではありま せん。もっともよい方法は「プ ロービングアーム」(写真 3)と 呼ばれるプローブ保持装置を使 うことです。プラス側入力端子 とマイナス側入力端子を均等な 圧力で測定点に接触させること ができます。

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写真3 プロービングアーム

差動プローブを使えるのはエキスパートだけ

差動プローブは安価ではありません。差動電圧と対地電圧がプ ローブの規格を超えていないか注意を払うのに加え、静電気を防 ぐ方法を常に取らなければなりません。それらの注意を払えるエ ンジニアだけが、差動プローブの優れた性能を享受する権利があ るのです。これらの煩わしさを加味したとしても、差動プローブ は大いに価値あるプローブです。その高い性能は積年の問題を解 決し、大きな利点を技術者にもたらすことができます。

6. 注意しないと命にかかわるぞ!!—高電圧プローブ

 今回は、高い電圧を測定できる「高電圧プローブ」について述べていきます。高電圧測定においては、操作や接続方法などを誤るとケガをしたり命に関わる恐れがあるので十分注意してください。

壊れるぞ !! —プローブは高周波・高電圧が苦手

 本連載第 2 回(2 ページ〜参照)で取り上げた受動プローブは、 数百 V を超える高い電圧を加えると壊れてしまい、測定するこ とができません。高い電圧を測定する際には、「高電圧プローブ」 と呼ばれる専用プローブを用います。高電圧プローブには、数千 〜数万ボルトもの高い電圧が測れるものがあります。ここで " 高 電圧プローブさえ使えば安心 " と思った読者もいらっしゃるかも しれません。しかし、ここに大きな落とし穴があります。実在の 高電圧プローブ(写真 1)を例にとってみましょう。

 写真 1 のプローブは、最大入力電圧 2 万 V をうたう大型のプ ローブで高電圧測定によく使われています。このプローブで周 波数 10MHz の電圧 5 千 V を測れるでしょうか。最大入力電圧 2 万 V のプローブなので、5 千 V は問題なく測れると考える読者 もいらっしゃるでしょうが、答えは「NO!」です。測れません。 なぜでしょう。それは 10MHz という高い周波数が原因です。高 い周波数になればなるほど、プローブに印加できる電圧は低下す るのです(図 1)。最大入力電圧とは、そのプローブに印加でき る電圧のうち、最大の値を意味し、低い周波数においてのみ実現 できる値なのです。注意を促すため、ほとんどの高電圧プローブ には周波数と印加できる電圧の関係を表すグラフが添付されてい ます(図 2)。

図 2 は P6015A 型(Tektronix 製)の「デレーティング特性」 と呼ばれるグラフで、周波数と印加できる電圧の関係を示してい ます。印加できる最大の入力電圧は 2 万 V ですが、低い周波数 に限定されています。400kHz を超えて周波数が高くなると、印 加できる電圧はだんだん小さくなり始め、グラフから読み取ると 10MHz において約 4 千 V、20MHz において約 3 千 V しか印加 できないことが読み取れます。

数 100kHz より低い周波数ならほぼ安心ですが、MHz 近くの 周波数を測るときにはデレーティング特性グラフを見て印加でき る電圧を確認しましょう。特に高電圧プローブにおいては、大き な事故につながりますので、十分に注意する必要があります。写 真 2 は、高い電圧による絶縁破壊の例です。

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写真1 高電圧プローブの例—Tektronix 製 P6015A 型
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写真2 高い電圧による絶縁破壊の例
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図1 高い周波数になればなるほどプローブに印加できる電圧は低下する
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図2 高電圧プローブに添付されている周波数と印加できる電圧の関係を表すグラフの例

プローブが溶ける !! 火傷する !!!

高電圧の測定においては、火傷にも注意が必要です。高い周波 数の大きな電圧を測定すると、プローブは容易に発熱します。発 熱による火傷に注意すべき領域をグラフ上に示しているプローブ もあります(図 3)。高電圧測定においては、測定時間を極力短 くし、プローブが過熱するのを防がなくてはなりません。長時間 測定を続けると、熱によりプローブの一部が熔解することすら起 こりえます。

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図3 高電圧プローブに添付されている火傷に注意すべき領域を示したグラフの例

グランドの接続が外れると危険 !! 命を落とすぞ !!!

受動プローブについても同じですが、特に高電圧プローブのグ ラウンド接続は確実にとらなければなりません。接続順番もまず グラウンドを接続し、続いてプローブ先端を接続するよう習慣づ けてください。グラウンドワニ口が外れてしまったり、接続順番 を守らなかったりすると、測定しようとしている 1000V もの高 い電圧がオシロスコープの入力端子や筐体に発生します(図 4)。 高電圧に気付かず筐体や金属部に触れてしまえば命にかかわりま す。グランド付き電源ケーブルにより筐体を常にグラウンド(アー ス)に接続してください。こうすれば、人命に関わるような最悪 の事態を防ぐことができます(図 5)。

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図4 筐体がグラウンド接続されていない場合、グラウンドリードがはずれれば 1000V もの高電圧がオシロスコープの入力端子や筐体に発生する
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図5 筐体がグラウンド接続されていれば、グラウンドリードがはずれても安全で筐体電位はゼロである

フローティング測定の落とし穴

図 6 のように、電位のある一点とさらに電位のある別の一点 間の電圧を測定することを「フローティング測定」といいます。 また信号源 1 を「差動電圧」、信号源 2 を「コモン電圧」と呼び ます。初心者が犯しやすいまちがいは、不用意にプローブのグラ ウンドリードを B 点に接続しようとすることです。接続した瞬 間に悲劇が起こります。信号源2は図7のように短絡されるので、 信号源 2 自体が壊れるか、グラウンドリードを含む電流経路を焼 き切ってしまいます。そうなればと、電流経路を取り去ってしま うという乱暴な方法を使う中級者もいます。電源ケーブルのグラ ウンドピンをあえて繋がないのです(写真 3)。これはフローティ ング測定において全く正しくない方法です。1. 感電、2. 電源回路 の故障、3.被測定回路への悪影響という3つの問題が生じます(15ページ図 8)。オシロスコープの筐体や金属部が信号源 2 の電位 をもつことになるので、金属部に触れると感電します。信号源 2 の電圧が高い場合は、人を死に至らしめます。人が触れないとし ても、電源回路は AC100V 電圧にさらに信号源 2 の電位が加わ ることになり、電源回路を故障させるなど、故障にいたるストレ スを蓄積させることになります。信号源の出力インピーダンスが 高い場合は、数百 pF もある浮遊容量が回路の動作を狂わせます。 筐体やグラウンドワニ口に数十 V の浮遊電圧が生じていること も多く、プローブのワニ口を測定点に接続するとその電圧により 被測定回路が壊れることさえあります。

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写真3 正しくない方法 — " 電源ケーブルのグラウンドピンをあえて繋がない "というような乱暴な方法はやってはいけない
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図6 フローティング測定
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図7 グラウンド付きのオシロスコープの場合
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図8 グラウンドを浮かせたオシロスコープの弊害

フローティング測定できるオシロスコープ

 フローティング測定において電源ケーブルのグランドをきちんと接続しながら、既述のような数々の失敗をしないためには、どうすればよいのでしょう。1 つ目の答えは、フローティング測定を念頭に設計された専用オシロスコープ(写真 4、図 9)を使うことです。

 一般的なオシロスコープの入力 BNC 端子の外側金属部はオシ ロスコープの筐体に繋がれており、すべての外側金属部は互い に接続されています。ところが、この専用オシロスコープでは金 属部分の露出を極力なくし、各入力 BNC 端子の外側金属部はオ シロスコープの筐体からも、互いに外側金属部からも絶縁され ています。したがって、各チャネルはグラウンドから独立してお り、プローブのワニ口を測定点に接続しても、コモン電圧は短絡 しません。金属露出部のない専用プローブを使って、差動電圧は 1000V まで、コモン電圧は 600V までのフローティング測定がで きます。

擬似差動プローブ

 2 つ目の答えは、プローブ 2 本で擬似的に差動プローブを作る ことです。接続は 2 本のプローブの先端を A 点 B 点に接続しま す。グラウンドワニ口は 16 ページ図 10 のようにアースに接続 するか、16 ページ図 11 のように互いを接続したまま中空にぶ ら下げておきます。後は、オシロスコープの機能を使い、CH1 と CH2 の引き算をするだけです。こうすれば、A 点 B 点間の差 動信号だけがオシロスコープに表示されます。手持ちの 2 本のプ ローブがあれば、手軽にこの擬似差動プローブが作れます。しか し、擬似差動プローブを使うには 2 つの点に注意してください。 第 1 に、特性と伝播遅延時間を合わせるため同じ型番のプロー ブを用いることです。第 2 に、オシロスコープで引き算する前に 2 つの波形を画面内からはみ出させない範囲で最大になるようオ シロスコープの垂直軸感度を正しく設定することです。2 本のプ ローブどうしを軽くねじっておくと、グラウンドシールド線に飛 び込むノイズをキャンセルできるのでノイズが軽減する、という ことを知っておくと役立ちます(写真 5)。

 そして 3 つ目の答えは「高電圧差動プローブ」を使うことです。これについては、次回に詳しく解説していきます。

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写真4 フローティング測定用オシロスコープの例—Tektronix 製 TPS2000 シリーズ
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写真5 2 本のプローブどうしを軽くねじっておくとグラウンドシールド線に飛び込むノイズをキャンセルできるのでノイズが軽減する
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図9 フローティング測定用オシロスコープ
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図10 グラウンドワニ口をグラウンド接続
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図11 グラウンドワニ口を互いを接続したまま中空にぶら下げておく

7. フローティング測定に最適—高電圧差動プローブ

前回は、高電圧プローブとフローティング測定について説明しました。今回は、まさにプローティング測定に最適である「高電圧差動プローブ」について述べていきます。

高電圧差動プローブ

フローティング測定にもっとも 適したプローブは、フローティン グ測定のために設計された「高電 圧差動プローブ」です。測定対象 の電圧があまり大きくない場合、 信号忠実度の優れた小型の高電圧 差動プローブ(写真 1)がおすす めです。写真 1 の小型の高電圧差 動プローブに印加できる電圧は、 差動電圧として 42V、対地電圧として35Vを超えることはできません。この関係を図1に示します。 差動電圧で 42V、対地電圧で 35V を超える場合、大型の高電圧 差動プローブを選ぶことになります(写真 2)。写真 2 のプロー ブでは、差動電圧が最大 4400V、対地電圧が最大 2200V まで測 定できる反面(17 ページ図 2)、形状が大きくなり、特に入力リー ド線の扱いに注意が必要になります。長いリード線は共振やノイ ズ飛び込みの原因となり波形品質が悪化する可能性があります。

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写真1 小型の高電圧差動プローブの例 —Tektronix 製 TDP1000 型
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図1(b) オシロスコープに表示される波形
 
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図1(a) 差動動作電圧±42V、対地動作電圧±35V の高電圧差動プローブに印加できる差動波形の例
 
 
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図2 写真 2 のプローブでは、差動電圧が最大 4400V、対地電圧が最大 2200V まで測定できる
 
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写真2(a) 大型の高電圧差動プローブの例—Tektronix 製 P5205 型
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写真2(b) 大型の高電圧差動プローブの例—Tektronix 製 P5210 型

2本のリードの扱いによる特性変化

大型の高電圧差動プローブを使うコツは、2 本のリードどうし を軽くねじっておくことです。しかし、リードを接続すべき 2 つ の接続点が離れている場合は、リードどうしをねじることがで きません(写真 3)。P5205 を実例にして、リードをねじるか離 すかにより、特性が変化するようすを見てみましょう。図 3 は、 サイン波をプローブに入力し、振幅を一定に保ちながら周波数を 10MHz 〜 150MHz と変化させ、プローブ通過後の振幅変化をグ ラフにしました。リードを互いにねじった場合、プローブの特性 は理想的になり、ほぼ素直な特性で周波数帯域 100MHz を実現 しています。ところがリードを離した場合は、特性は約 74MHz において大きなピークを持ち、振幅が 2 倍以上も変化します。 オシロスコープの画面において 40MHz、50MHz、60MHz、 74MHz、80MHz のサイン波を観測すると、74MHz のピークに 向って振幅が徐々に大きくなるようすが分かります(18 ページ 図 4)。18 ページ図 5 に理想的な特性をしたパルス波形をプロー ブに入力し、プローブ通過後の応答特性も示します。リードをね じった場合のほぼ素直な特性に対し、リードを離した場合の特性 は大きなリンギングを生じていることが分かります。なお、リ ンギングのピーク間の周期(13.5ns)から共振周波数(1/13.5ns: 約 74MHz)が計算できます。大型の高電圧差動プローブでよい 特性を出すには、入力のリードを互いにねじっておくことが大切 です。ねじることができない場合は、リンギングを起こす周波数 より低い周波数範囲で使用すると、良い結果が得られます。

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写真3 2 本のリードをねじった状態と離した状態
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図3 リードをねじった場合と離した場合の周波数特性
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図4 40MHz、50MHz、60MHz、74MHz、80MHz のサイン波を観測したようす
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図5 プローブ通過後の応答特性リンギングのピーク間の周期(13.5ns)から共振周波数(1/13.5ns: 約 74MHz)が計算できる

CMRRは有限

 高電圧作動プローブが使われる多くの場面は、スイッチング電 源回路です(図 6)非常に大きな Vds 電圧が変動しているなかで、 小さな Vgs電圧を観測するときに、問題が起こります。Vds(対 地電圧)の変動が Vgs(差動電圧)に影響を与えるのです。どの くらい影響を与えるかは高電圧差動プローブの CMRR という性 能で決まります。CMRR が無限大なら理想です。Vds(対地電圧) の影響を全く受けずに Vgs(差動電圧)のみを測定できることに なりますが、CMRRは無限大ではありません。つまり、必ずVds(対 地電圧)の影響を受けてしまいます。

例えば 300V も Vds(対地電圧)が変動するなか、数 V のVgs (差動電圧)を CMRR が 50dB(300:1)の高電圧差動プローブで観測するとしましょう。この場合、Vds(対地電圧)が 300V の 300 分の 1 である 1V は除去できずに残ることになります。測 定したい数 V の Vgs 波形がこの 1V の波形によって変形される ことになります。ローサイドのスイッチング素子を観測する場合 は何の問題も起こさないのに、ハイサイドのスイッチング素子を 観測すると変な波形になるようならば、まず高電圧差動プローブ の CMRR 不足を疑ってみましょう。

上記の現象を分かりやすくするため、実験回路(図 7)にお いて、高電圧差動プローブで観測した 1V の差動電圧波形(短 波形)が、15V の対地電圧(サイン波)によって変形されるよ うすを示します(図 8)。フローティング測定において、高電 圧差動プローブの CMRR は有限であることを忘れてはなりま せん。

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図6 スイッチング電源回路
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図7 実験回路— 有限なCMRRによる歪みを実験する
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図8 図 7 の実験回路にて、高電圧差動プローブで観測した 1V の差動電圧波形が 15V の対地電圧によって変形されるようす

8. 電流波形を観測する電流プローブ

最終回となる今回は、電流プローブについてお話します。

電流波形と電圧波形は違うのが当たり前

オームの法則(図 1)により、電流は抵抗器によって電圧に変 換することができます。電流波形を観測するとき、電流経路に抵 抗器を挿入し電圧に変換後、電圧波形として電圧プローブで観測 する手法があります。この手法において陥りやすいまちがいは、 抵抗器を安易に純抵抗とみなしてしまうことです。十分に低い周 波数(成分)を扱う場合、抵抗器はほぼ純抵抗とみなせますが、 高い周波数になると、抵抗器はもはや純抵抗ではありません。コ イル(インダクタンス)を含んだインピーダンスと考えなければ なりません。このような場合、抵抗器を流れる電流波形と抵抗器 に生じた電圧波形は異なります(図 2)。

 実際に周波数帯域 20MHz のオシロスコーププローブシステム において、インダクタンスの影響を見てみましょう。純抵抗に 46cm のケーブルを加えるだけでインダクタンスは増加し、電流波 形と電圧波形にはっきりとした差がでます。電流波形は立ち上り が鈍り、電圧波形はオーバシュートを生じます(図 3)。このシス テムにおいて数十 cm 分のインダクタンスがあるだけで、抵抗器 を挿入する手法は、電流波形の観測に向かないことが分かります。 もっと高い周波数を扱うシステムならば、もっと小さなインダク タンスによって同様の状況となります。抵抗器を挿入する方法で は、いかにインダクタンスを軽減できるかが成否を決定します。

こんなとき電流プローブを使わないと失敗する

電流の観測において、直接電流を観測するに越したことはあり ません。電流波形を観測するために作られたプローブが「電流プ ローブ」です。ケーブルに流れる電流がつくる磁束を捉え、電圧 に変換します。既述の電圧プローブ群(受動プローブ、アクティ ブプローブ、差動プローブ、高電圧差動プローブ、高電圧プロー ブなど)とは、かなり動作が異なります。磁束を捉えるための検 出部はコイルを巻いたトランスです。トランスのコアを通過する 被測定ケーブルは、トランスの 1 回巻きの一次巻線として働きま す。トランスのコアにあらかじめ n 回巻かれたコイルが二次巻 線となり磁束を捉えて電流を発生します。その電流が負荷抵抗に より電圧に変換され、オシロスコープに入力されます(図 4)。

 被測定経路に抵抗器を挿入して抵抗器の電圧降下を測る手法で は、抵抗器を入れるため回路を切断しなければなりませんし、抵 抗器を入れること自体が被測定回路の動作を乱します。それに比 べると、電流プローブを用いた測定は、回路に与える影響の少な いより正確な測定が可能となります(20 ページ図 5)。なお、電 流プローブを回路に取り付けることは、被測定回路に小さなイン ピーダンスを挿入することになり、わずかながらも被測定回路の 動作を乱します。そのインピーダンスを「電流プローブの挿入イ ンピーダンス」と呼び、プローブごとに規格されています。挿入 インピーダンスは総じて小さな値となります。

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図1 オームの法則
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図2(a) 十分に低い周波数(成分)を扱う場合— 電流波形と電圧波形は同じになる
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図2(b) 高い周波数(成分)を扱う場合電流波形と電圧波形は異なる
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図3 インダクタンスの影響
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図4 コイル、電流、電圧の関係
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図5(a) 回路を切断して大きな抵抗を挿入する測定方法
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図5(b) 電流プローブを用いる測定方法

低い周波数に気を付けろ !!

電圧プローブではほとんど気にする必要のないことですが、電 流プローブでは低い周波数の観測において注意が必要です。検出 部にトランスを使う構造なので、多くの電流プローブは直流およ び低い周波数の信号を検出が得意ではありません。このようなプ ローブを「AC 電流プローブ」と呼びます。周波数が低くなるに つれて検出感度が下がり、波形の振幅や波形の形に影響が表れま す。120Hz の低域周波数帯域をもつ AC 電流プローブを例にと ると、サイン波形状の周波数 50Hz の電流は AC 電流プローブで 検出すると実際より小さくなり 60%以下の振幅にしか見えませ ん(図 6)。電流波形が矩形波の場合は周波数が低くなるにつれ、 波形の形が違って見えます(図 7)。これらの形が電流プローブ によるものと気付かなければ、まちがった測定をしてしまいます。

AC 電流プローブに直流が重畳した場合も注意が必要です。直 流が重畳すると、低い周波数がさらに検出できなくなり、さらに 矩形波の形が変形します(図8)。このように波形が変形してしまっ ては、真の波形とはほど遠くなり、正しい測定ができません。重 畳した DC 電流による不具合は、不具合を起こす DC 電流と同量 の逆電流(バッキング電流)を流すことにより解消できます(図 9)。

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図6 電流プローブでは低い周波数の観測において注意が必要
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図7(a) 高い周波数の場合 — 100Hz 付近
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図7(b) 低い周波数の場合 — 1kHz 付近
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図7(c) 低い周波数の場合 — 10kHz 付近
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図8 AC 電流プローブに直流が重畳した場合
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図9 重畳した DC 電流による不具合は、不具合を起こす DC 電流図8 AC 電流プローブに直流が重畳した場合 と同量のバッキング電流により解消できる

DCも測れる電流プローブ

AC 電流プローブにとって DC および低い周波数はやっかい なものですが、これらを苦にしない電流プローブがあります。 「AC/DC 電流プローブ」と呼ばれるプローブで、DC(および低 い周波数)測定において、感度の低下もなく波形の変形もありま せん。DC(および低い周波数)を検出するホール素子をコアに 内包しており、つねに DC(および低い周波数)をキャンセルす るように逆電流を流すことにします。これにより、AC電流プロー ブで見られた諸問題を解決して います。AC/DC 電流プローブ は、DC および低い周波数の信 号に対する煩わしさから開放さ れ、さらに高域周波数帯域も最 高 120MHz まで伸びている理想 的な電流プローブといえます(写 真 1)。

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写真1 AC/DC 電流プローブの例 — Tektronix 製 TCP0030 型

小さな電流を測定するには

電流プローブはかなり高感度ですが、μA(マイクロアンペア) 程度の小さな電流になると振幅が足りず、波形がノイズに埋もれ ます。このような場合、微小電流の流れるリード線をコアに複数 回巻きつけると、巻き数に比例して振幅を大きくすることができ ます(写真 2)。ただし、多少難 があり、挿入インピーダンスが 増加します。n 回巻くと、挿入 インピーダンスは 1 回巻きの n の 2 乗倍になります。挿入イン ピーダンスの増加による影響も 考慮する必要がありますが、振 幅増加には有効な手段です。

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写真2 リード線をコアに複数回巻きつける

高い周波数の大きな電流は苦手 —壊れるぞ !!

 電流プローブには、高い周波数の大きな電流は印加できません (図 10)。実際の電流プローブ(写真 3)を例にとって説明しま す。このプローブは最大連続ピーク電流 212A をうたう大型のプ ローブで、大電流測定によく使われます。このプローブに周波数 1MHz のピーク電流 100A を印加できるでしょうか。212A のプ ローブなので、100A の電流なら「できる」と思うかもしれませ んが、答えは「できない」です。それは 1MHz という高い周波 数が原因です。高い周波数においてプローブに印加できる電流は 低下します。最大連続ピーク電 流とはそのプローブに印加でき る連続電流の最大の値を意味し、 この値は低い周波数において実 現できる値なのです。

図 11 は TCP303 型(TCP300シリーズの電流プローブ)の「デレーティング特性」と呼ばれるグラフです。 周波数と印加できる電流の関係を示しています。 1kHz より低い周波数において印加できる電流は最大 212A です が、1kHz を超えて周波数が高くなると、だんだん小さくなり始 めます。グラフから読み取ると 1MHz においては約 50A しか印 加できないことが分かります。

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写真3 電流プローブの例—Tektronix 製 TCPA300 シリーズ
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図10 電流プローブには高い周波数の大きな電流は印加できない
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図11 TCP303 型のデレーティング特性

電流時間積に要注意

 連続した電流ではなく、単発的に流れる細いパルス性の電流な ら、最大連続ピーク電流を超えてさらに大きな電流を印加するこ とができます。TCP303 型について、どのくらいのパルス幅なら どのくらいのピーク電流が印加できるかを図 12 に示します。最 大で 500A を超えることはできませんが、パルス幅が細くなるに つれ 212A 以上の電流が印加できることが分かります。図 12 中 の「15000A*μs」が「電流時間積」と呼ばれる値です。パルス幅 とピーク電流の積が 15000 を超えない条件で、例えば 30μs なら 500A が、71μs なら 212A が印加できます。ただし、連続しな い単発パルスについてのみの適応となります。

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図12 TCP303 型の最大ピーク電流

プローブが熔ける !!

大電流の測定においては、プローブの発熱に考慮し、測定時間は短時間に留めなくてはなりません。写真 4 は発熱によりプローブが熔けた例です。

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写真4 プローブの発熱に注意

プローブケーブルの長さに注意

 電力測定においては、電流プローブと電圧プローブを使用しま す。電流波形と電圧波形との掛け算によって電力波形を作るこ とが測定のスタートです。多くのユーザは電流プローブと電圧プ ローブの選択に際し、それらの伝播遅延時間(信号がプローブに 印加されてからオシロスコープに到達するまでの時間。ケーブル の長さと内部回路により決まる)には無頓着です。伝播遅延時間 に差があれば、電流波形と電圧波形とに時間差が生じ、計算した 結果(電力波形)が正しく作れません(図 13)。図 14 は伝播遅 延時間に 10ns の差があるだけで 20%以上もスイッチング損失が 大きく見えてしまう例です。プローブの伝播遅延時間の差による 問題を解決するには、時間差をキャンセルする機能(デスキュー 機能)をもつオシロスコープが有効です。

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図13 各プローブに合わせたスキュー調整が必要
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図14 スイッチング損失が大きく見える例

最後に

本連載では、プロービングにおいて陥りやすい事がらを 例として取り上げてきました。あまりの多さに驚いた読者 もいらっしゃるかと思います。プロービングはまさにノウ ハウの塊です。言い換えれば、これらの失敗例をクリアす れば、多大なノウハウを身につけることができます。

 言うまでもなく、ほとんどの測定において最初にすることは信号へのプロービングです。プローブなくして測定は始まらないのです。プローブにつまずくと、その後の測定すべてが台無しなるほどの重要なパートです。

 測定したい信号の種類や大きさはさまざまで、それらに 合わせた数多くのプローブが準備されています。測定対象 は電圧なのか、電流なのか、光なのか、音なのか、圧力な のか。信号は小さいのか大きいのか、信号が変化するとす ればその変化はどの程度の速さなのか——信号を知り、最 適なプローブを選ぶノウハウと共にそれを使いこなすプ ロービングのノウハウを知ってしまえば、プローブのプロ フェッショナルです。測定をもっと効率よく、もっと正 確に行うことにより、皆様の仕事は大きく前進することで しょう。本連載が皆様の仕事のお役に立てれば幸いです。 ※ 本連載記事は今回が最終回です。ご愛読いただきまして、 誠にありがとうございました。